「国家か無秩序か」という古い二択#
国家の機能を減らす話をすると、すぐに「では治安も裁判も福祉もなくすのか」と問われる。この反応は、現在ひとつの組織に束ねられている機能が、永遠に同じ束でなければ動かないと仮定している。
しかし、通信では端末、回線、アプリ、認証、決済が別々の提供者によって動いている。インターネットが世界政府を必要としなかったように、制度も唯一の巨大な提供者を必要とするとは限らない。
宇宙政府が目指すのは、国家のスイッチを一夜で切ることではない。国家でなければ提供できない機能を、一つずつ減らすことである。
独占者からプロトコルへ#
現在の国家は、規則を作り、本人を認証し、通貨を発行し、資格を認め、サービスを配り、紛争を裁き、自分自身の成果を評価する。提供者、審査者、評価者が同じ巨大組織に集中している。
これを部品に分ける。
- 本人確認は、複数の発行者が相互検証できるようにする。
- 能力証明は、国家資格だけでなく成果物と更新履歴で示す。
- 決済は、国家通貨だけでなく複数の手段を接続する。
- 教育、保険、福祉は、利用者が提供者を比較・乗換できるようにする。
- 紛争解決は、分野ごとの手続を選べるようにし、最終的な暴力防止だけを共通化する。
- 政策は、目的、費用、効果、代替案、終了条件を機械可読にする。
このとき国家に残るのは、すべてを決める権威ではない。異なる制度どうしが衝突せず接続するための、最小限の互換層である。
互換層に残りうる仕事#
完全な私的選択だけでは処理しにくい問題は残る。暴力の防止、子どもなど本人が契約できない場合の権利保障、広域災害、感染症、環境外部性、制度間で解けない最終紛争などである。
重要なのは「公共的だから政府が全部やる」と飛躍しないことだ。共通で処理すべき範囲を限定し、その層にも目的、費用、期限、監査、異議申立てを付ける。
互換層は薄いほどよい。ただし、薄さ自体を信仰にしてはいけない。弱い立場の人が実質的な選択肢を失うなら、その分離設計は失敗である。
代替は批判より強い#
既存国家への批判だけでは、国家の独占を弱められない。生活に必要な機能がそこにしかなければ、人は不満があっても戻らざるを得ない。
だから宇宙政府の革命は、占領ではなく代替である。
- 紙の肩書より信頼できる能力証明を動かす。
- 密室の規則より改訂履歴が明確な宇宙法を運用する。
- 支出額ではなく生活改善を測る政策評価を作る。
- 加入だけでなく、退出とデータ可搬性を最初から設計する。
国家より自由で、安く、透明で、退出可能な仕組みが実際に使われれば、独占は理念ではなく比較によって崩れる。
この構想が失敗するとき#
分離した民間制度が国家以上の独占になれば失敗である。退出が富裕層だけの特権になれば失敗である。認証や通貨が不正に耐えられず、結局ひとつの権威へ依存するなら失敗である。技術が選択肢より監視を増やすなら失敗である。
宇宙政府自身も例外ではない。検証され、競争にさらされ、使えなければ退出される側でなければならない。
百年後、日本という文化は残るだろう。だが、日本国が規則、資格、通貨、福祉、帰属を一括供給する唯一の装置である必要はない。国家は運命共同体から、複数の制度をつなぐ互換層へ縮小できる。